facethemusic (過去ログ)

20040421-20070301。音楽問題を中心に記載したはてなダイアリー、【facethemusic】の移行、その記録。

音楽専門誌、遂に言及開始へ〜bmr6月号より〜

明日10日発売のR&B/Hip-Hop専門誌、「bmr(BLACK MUSIC REVIEW)」の中で、荘治虫氏*1がP137のコーナー"XPLOSIVE!"*2にてこの問題を取り上げています。*3



「輸入盤CDが店頭から消える日」



音楽記事ばかりの中で、ある意味、息抜き的存在のXPLOSIVEとしてじゃちょっとヘヴィなネタかもしれないけど、これはジャンルに限らず音楽ファンならば誰しも関係する話だ。本誌読者ならば少なからずお世話になっているだろう輸入盤がレコード店から消えるかもしれないというただならぬ事態についてお話ししたい。
そもそもことの始まりは、今国会で審議中の著作権法改正案(「著作権法の一部を改正する法律案」)。書籍・雑誌の貸与権についても言及されるものだが、音楽に限って言えば、アジア諸国で安価に売られている邦楽CD(海賊盤ではなく正規盤)の日本国内への還流を防止することを目的とする法案だ。香港や台湾に出掛けた際、日本人アーティストの現地盤CDの激安価格に驚いたことがある人もいるかと思うが、最近ではそうしたアジア盤が日本にいわば逆輸入され、ディスカウント・ストアを中心に格安で販売されていることがある。こうしたアジア盤が広まってゆくと日本盤が売れなくなってしまうかもという危機感から、これを排除しようということになったわけだ。
ところが、この法案にはとんでもない落とし穴がある。それは、本来の目的である邦楽ばかりか、国内盤が発売される洋楽CDについても適用される恐れが出てきたのだ。本誌の関心事としてUS盤やUK盤の輸入という観点から改正案を読むと、日本盤がリリースされているタイトルについて、アメリカ国内やイギリス国内など日本国外向けに販売されることを目的としたもの(つまりUS盤やUK盤などの海外盤)を日本に輸入販売することで、著作権者やレコード会社が利益を損なう場合、著作権もしくは著作隣接権の侵害に当たる、としている。
この法案が審議を通ると、実際に何が起こり得るのか。まず、日本盤が出るCDについては輸入盤が店頭から消えるかもしれない。その結果、タイトルによってはコピーコントロールCDしか選択肢がなくなるものも出てくるだろう。そして、安価な輸入盤が姿を消すことで、日本盤の価格が邦楽並に値上がりすることもないとは言えない。価格競争がなくなるわけだからこれは当然と言えば当然。また、日本盤がリリースされないCDも同じく店頭から消える可能性がある。なぜなら、インポーターと呼ばれる輸入業者が撤退を余儀なくされる危険性があるからだ。
通常、ソニー、EMI、BMG、ユニバーサル、ワーナーの五大メジャーの輸入盤CDは、それぞれの日本国内にある現地法人・関連会社が直接仕入れを行い、国内盤とともにレコード販売店へ出荷しているが、一方で、インポーターもまた並行輸入という形で同じタイトルを扱っている。タイトルによっては、メジャーの輸入盤部門では扱わない各国盤を仕入れるなど小回りがきくのがインポーターの特徴。レコード店ではどのCDがインポーター経由のものなのかなんて表示されてはいないから気が付くことがないだろうが、ある程度の音楽ファンならきっとお世話になっているだろう。そして、忘れてならないのは、インディ作品を輸入しているのも多くはこのインポーターだということだ。
このように洋楽の世界では欠かすことのできないインポーターだが、件の法改正によって、日本盤が出るような売れ線タイトルを扱えなくなることでそのビジネスが破綻することにもなりかねない。つまり、この業種全体が廃業に追い込まれるかもしれないのだ。そうなれば、法改正に直接関係しないインディ盤についても結果的に輸入されなくなる(輸入業者がいないのだから!)可能性が出てくる。
以上は最悪のシナリオであって、法改正によって必ずこうなるということではない。とくに価格の引き上げやインポーター云々の下りについてはひとつの推測でしかないことを明記しておきたい。実際、日本レコード協会は、その会員である五大メジャーの関連会社が洋楽CDの海外盤については輸入を阻止する考えはないとする「確認書」なるものを出しているから、その通りにことが運べば、あるべき姿である邦楽CDのみに適用される可能性も充分にある。第一、あるレコード会社が人気アーティストの輸入盤をストップしたとしても、別のレコード会社がそれと競合するような自社の洋楽アーティストの海外盤を輸入すれば、同じアーティストのCDではないにしろ市場原理から言って競合に負けることは充分に考えられるわけで、そう単純に輸入盤禁止が現実のものになるとも思えない。しかし、レコード会社の利益の侵害に当たる場合は洋楽CDにも当てはまるという内容の政府(小泉総理大臣名義)の答弁書も出されているわけで、メジャー各社が一様に"心変わり"するとしたら……けっして楽観できる状況ではないのは確かだ。
今回の法改正の洋楽への適用可能性については国会議員の中にも懸念する向きもあって、たとえば民主党ホームエンタテイメント議員連盟の発起人である川内博史佐藤謙一郎の両衆議院議員は積極的にこの件に取り組み、佐藤議員のウェブサイト(http://www.satokenichiro.com/)で「洋盤CDが危ない!!」というページを開いている。また、音楽ファンによるサイトには、この件の動向から法案への賛成・反対議員のリストまで掲載されているものもある。本誌の読者のような音楽ファンならば、この件は他人事ではないだろう。
著作権法改正案は、4月21日、参議院を通過し、衆議院に提出されている。


荘治虫著 「bmr」"XPLOSIVE!"(P137)より


*1:今号を最後に編集部を離れるとのことです。7年間お疲れ様&ありがとうございました。

*2:このコーナーは雑誌ライター有志によるフリートークで、普段は1Pで2名のライターなのですが、今回丸々1P使用しています

*3:本来の発売日より早く、渋谷タワレコでフライングリリースされていました